物流DXを成功させるための重要なこと

先日、私が主催しているFacebookグループ「中小倉庫改善研究会」のメンバーのお一人である物流コンサルサイトの花房 陵(はなぶさ・りょう)氏(ロジスティクス・トレンド株式会社 代表取締役)に物流DXで本当に効率を上げるには、何が必要かという事をzoomのイベント内でお話をしてもらいました。

その内容を私なりに解釈をした記事となっています。

物流DXを成功させるためには、最新の設備やシステムを導入しても、必ずしも成功するとは限りません。

なぜなら、トータルバランスを考えず、一部のシステムや設備の能力を単にアップするだけでは、現場でのバランスを崩してしまう可能性があります。

物流現場のトータルバランスを考える場合、下記の3つが重要です。

  1. 効率と生産性
    現場作業の工程(流れ)の効率化を図り、生産性を向上させます。
    これには、作業フローの最適化や無駄な動きを削減するための現場のレイアウトの改善が含まれます。
  2. 在庫と品質管理
    適切な在庫管理をする事で、過剰在庫や品切れを防ぎます。
    また、商品の品質を保持し、誤出荷を防ぐことで、顧客満足度を高めます。
  3. 人材と技術の活用
    従業員のスキル向上とモチベーション維持により、人的資源の能力を最大限引き出すために、バーコードシステムやRFID、WMSのような最新技術を用いて作業の自動化や効率化を行います。

物流現場のトータルバランスを維持するのは、企業全体の競争力を高めるために不可欠です。

これは車に例えると非常に分かりやすいと思います。

どんなに馬力がある車であっても、その馬力に見合ったブレーキ能力がなければ、止まることも、曲がることも出来ず、危なくて乗ることができません。

結果的にスピードを出しても止まることができないので、持っている馬力を最大限生かすことができません。

そして、持っている馬力を路面に伝えるためには、タイヤの接地面を多くするために太いタイヤを履く必要があります。

そうでなくては、馬力が生み出す力を路面に伝えることが出来ず、馬力が路面に伝わらず空回りしてしまい、結果的にその馬力を生かすことができません。

これは、スポーツカーやレーシングカーを見てもらえば分かると思います。

また、最近の車はすべてコンピュータ制御です。

なぜ、コンピュータ制御が増えてきたかといえば、車の能力を高いレベルで発揮させる必要があるからです。

昔は、ミッション車が多く、ドライバーの運転技術により、車の能力を発揮させていました。

なぜ、発揮させることができるのかといえば、ドライバーが車の能力を最大限引き出すバランスの良い領域で走っていたからです。

ところが、最近は9割がオートマ車です。

ということは、車の能力を最大限活かすためにはコンピュータ制御に大きく依存します。

なので、高い能力がある車であっても、コンピュータ制御によって、バランスよく制御できないと結果的に能力を最大限に活かすことはできません。

ただ、ドライバーの能力が必要ないかといえば、そうではありません。

完全な自動運転であれば、ドライバーの能力は必要ないでしょう。

しかし、まだまだ、ドライバーがハンドルを握り、アクセルとブレーキを操作し、状況を判断して運転しています。

なので、車を操る主導権はドライバーにあるのです。

コンピュータ制御は、ドライバーのサポート・補助的な役割になっているのです。

例えば、ブレーキのABSシステムは分かりやすいかもしれません。

急ブレーキを踏んだ際、本来であれば、ドライバーがフットブレーキでタイヤのロックを防ぐための操作をする

しかし、ABSシステムがあれば、フットブレーキをコンピュータ制御により行ってくれます。

この考え方を物流現場にあてはめるとどうなるでしょうか。

素晴らしい能力を持った最新の物流システムがあったとします。

ただし、扱う現場作業者が知識不足でシステムの能力を理解していないとしたらどうでしょうか?

それらの最新のシステムの能力を最大限に活かすということができません。

もちろん、最低限の能力を発揮して、一定レベルの成果は出してくれるでしょう。

それ以上のレベルを発揮するには、現場に合わせ、全作業工程のバランスを考えて、微調整を行う必要があります。

最新のシステムになればなるほど、さまざまな細かな設定ができます。

なので、現場の状況に柔軟に対応することが出来ます。

これは、最近のテレビの画面や音声の設定を見てもらえれば想像はつくかと思います。

上位機種になればなるほど、見る人に合わせて細かな設定が出来ます。

え?

そんなの自動設定やAIに任せれば良いんじゃないのという方が多いと思います。

もちろん、それでも大丈夫ですが、こだわる人は、微妙な設定をしています。

ところが、物流の現場において、それでは全体最適が出来ません。

全体最適が出来ないという事は、全体の作業効率が上がらない事を意味します。

それでは、最新のシステムを導入した意味もなければ、投資に似合った結果が得られません。

なので、細かな設定が必要となってきます。

ただ、その設定をするのが現場作業者になります。

なので、現場作業者がきちんと設定をしないと、システムの能力は最大限に活かすことができません。

なので、トータルバランスを考えて調整を行う必要があります。

そんなものは、設備・システムを開発した技術者に任せればいいというかもしれません。

ところが、そういった技術者は、現場の細かな状況や問題・課題点などを詳しく知っているわけではありません。

もちろん、レポートとして提出するかもしれませんが、物流の現場の状況は、簡単に説明できるほど、一定ではありませんし、イレギュラーな事は、度々、起こります。

なので、現場を知っている現場作業者がバランス調整をするのが一番効率が良いのです。

例えば、商品の仕分けをする為に、ベルトコンベヤーで5秒に1個、荷物が仕分け場に流れてきたとしてます。

その商品を瞬時に見分け、指定の置き場所に置くのは人間だとします。

その置き方も、荷物の形状によって考える必要があります。

これを3時間ほど、ずっと行っていたら、どうなるでしょうか?

こんなことをやらないだろうと思うかもしれませんが、似たような状況は、現実的に行わられています。

まさに、人間に機械並みの判断と行動を求めているのが、今の自動化の実態です。

この状況を間近で見たり、実際に経験をしていないと、バランス調整も機械の能力に合わせてしまいます。

なぜなら、そのほうがスピードも早く、生産性が上がりますから。

このようにトータルバランスが整っていないと、どんなに素晴らしいシステムや設備であっても、その能力を最大限活かすことができないのです。

結果的に高い投資をしても、その能力を最大限に生かすことはできず、「こんなものか」という状況になってしまいます。

それを、今の物流DXでは考えていないという場合が多くあります。

物流展に行くと、トラックのバース予約システムがあったり、トラックルートを効率的に設定してくれるシステムがあったり、自動倉庫により高速で商品が出てくる設備が多く展示されています。

では、これらを導入して、ポテンシャルを最大限生かすことができるでしょうか。

先ほどの例のように、一部の設備の能力が吐出して、周りが対応できず、結果的に全体のレベルを下げてしまいます。

もう少し詳しく倉庫現場を例に上げてみましょう。

予約バースシステムにより、時間通りにトラックが来ました。

ところが、倉庫内で段取りがうまくいかなかったり、人手不足で現場作業者が対応できない場合は、そのトラックに対応することができません。

これはトラックの最適ルートを決めた場合でも同じです。

どんなに早くトラックが着いたとしても、倉庫側で対応できなければ全く意味がありません。

自動倉庫においても、どんなに早く商品が出てきたとしても、それらをピッキングして処理する作業者のスピードが合っていないと、結果的に自動倉庫のスピードを落としてしまいます。

以上のことから、一部の設備・システムだけ最新のものにしても、全体の作業スピードのバランスを崩してしまい、全体最適化が出来ないのです。

にもかかわらず、多くの場合、物流展に展示されている一部の最新の設備を導入して、「これで作業効率が上がる」と考えている人が多いのではないでしょうか。

その考えを一度やめて、作業工程全体を俯瞰してトータルバランスを考えたシステムを考える必要があります。

それによって、もしかしたら最新の設備を導入する必要がない、または導入しても対応できないということが見えてくるかもしれません。

ただ、一番忘れてはならないのは、設備・システムを扱う人材育成です。

どんなに素晴らしく最新の設備・システムであれ、2~3年後には、型遅れのものになってします。

ソフトウェア系のものであれば、バージョンアップして、最新のものにできるかもしれませんが、固定式の設備は、そう簡単に最新のものに変える事は出来ません。

そうなった場合、それらの設備をどう活かすか、それは扱う人材の能力にかかっているのです。

物流DXといっていますが、結局のところ、最後は人なのです。

設備・システムは、あくまでもツールの1つです。

そのことを絶対に忘れてはいけません。

物流展で展示されているのは、あくまでも、物流現場において一部の作業の効率を改善するものです。

言い換えれば、部分最適しか出来ないのです。

物流現場の作業効率を上げる為には、全体最適化を考える必要があるのです。

そして、物流現場のトータルバランスを考え、全体最適化を行うためにどうするかを考えるのは人間なのです。

物流現場の作業効率を上げる最大のキーパーソンは、物流DXではなく、人間なのです。


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