輸送問題の解決が物流全体に与える影響:倉庫現場の視点から

物流業界では、輸送の効率化が大きなテーマとして取り上げられています。

多重下請け構造、低運賃、「水屋」問題、荷待ちや荷役、ドライバーの労働環境や賃金など。
ドライバーの労働環境改善や運賃の見直しといった取り組みが進む中で、これが物流全体にどのような影響をもたらすのでしょうか。
特に倉庫現場の視点から見た場合、その影響を考えていきます。

輸送効率化による影響とは?

輸送効率の向上は、物流全体に多くのメリットをもたらします。
具体的には、リードタイムの短縮、輸送コストの削減、ドライバーの労働環境の改善など、直接的な影響は非常に重要です。
しかし、輸送効率の向上が倉庫現場にとって必ずしも良い結果をもたらすとは限りません。
実際には、これが新たな課題を生み出すことも少なくありません。

例えば、輸送効率の向上によって一度に取り扱う荷量が増えることで、倉庫の格納・処理能力が限界を迎え、現場での混乱や作業の負荷増加を引き起こすケースがあります。
このため、倉庫の作業や人員配置にも柔軟な対応が求められる状況が増えてきています。

入出庫の荷量増加

輸送効率が向上することで、一度の入出庫の荷量が増える可能性があります。
これにより、現場の作業負担が増し、特に人手による作業に依存している中小規模の倉庫では混乱や過負荷のリスクが高まります。

例えば、中小倉庫では、輸送効率化に伴って一度に入庫する荷量が従来の1.5倍に増加したとします。
その結果、通常の作業手順では処理しきれず、一部の商品が一時的に置き場所を確保できずに荷捌き場に滞留する事態が発生します。
作業員は他の作業と並行して、対応することが求められ、通常より作業量と作業時間が伸びて、疲れが溜まり、作業効率・作業品質が低下する可能性が高くなります。

また、別の例えでいえば、荷量増加に対応するために急遽追加の作業員を派遣やスポットワーカーで手配したとします。
ところが、作業に不慣れな事もあり、様々なミスなどを起こす可能性が高くなります。
このような状況は、どんなに作業者の人数を増やしても、作業効率の低下、荷主・顧客からのクレームを生むミスの増加を招く恐れがあります。

需要予測の困難さ

輸送効率化に伴い、一度の入出庫の荷量が増えることで、過剰在庫になる可能性が高まります。
また、急な需要変化に対応できない場合、無理に対応しようとすると、倉庫現場に過剰な作業負担がかかり、作業効率や品質の低下につながります。

例えば、食品倉庫だった場合、予想外の需要変動により急遽大量の在庫を確保する必要が生れたとします。
しかし、倉庫内のスペースが限られていたため、大量な商品を入庫することで、指定の保管場所には格納できず、通路を塞いでしまい、作業動線が塞がれてしまいます。
これにより、賞味期限・消費期限がある商品を正確に管理・出荷できない可能性を生みます。
その結果、日切り商品が出来てしまい、出荷の出来ない商品を発生しさせてしまう可能性があります。

また、別の例として、急な需要に応えるために倉庫現場での作業量が一時的に増加することで、作業員は時間に追われ、作業に追われる事で、休憩を十分に取れない状況が高くなります。
このような状況では、作業効率が下がるだけでなく、疲労によるミスが増え、結果として作業品質の低下に繋がるリスクが高まります。

設備への負荷

頻繁な入出庫は、倉庫の設備にも大きな負担をかけます。
例えば、フォークリフトや搬送機器の使用頻度が増加し、メンテナンスの頻度も高まります。
特にフォークリフトやエレベータ・昇降機・コンベアといった搬送機器の劣化が進みやすく、バッテリーの消耗や機械部品の摩耗が頻繁に発生するリスクが高まります。

例えば、急な入出庫の増加により、通所よりフォークリフトのバッテリーの充電時間が十分に確保できずに、作業中に使用できなくなる可能性があります。
フォークリフトが使えないという事は、場合によっては、入出庫作業が出来ない事を意味します。
そうなってしまっては、作業員を増員しようが、無意味になってしまいます。

別の例では、エレベータの使用頻度増加により誤作動やエラーが出て使用できなくなる可能性があります。
そうなってしまえば、作業効率の低下ではなく、作業を停めなくてはならず、荷主からのクレーム対象になってしまいます。

中小倉庫への影響と課題

特に中小規模の倉庫にとって、輸送の効率化は必ずしも歓迎すべき変化ではありません。
大規模な物流センターでは、自動化やIT化により効率的な入出庫が可能ですが、中小規模の倉庫ではコストが大きな障壁となり、こうした技術の導入が難しいのが現状です。
その結果、以下のような課題が浮き彫りになります。

現場力の低下

中小の倉庫では、派遣社員やスポットワーカーの増加により、熟練度やノウハウの蓄積が難しくなっています。
特に、パート・派遣社員・スポットワーカーは短期的な契約が多いため、業務手順や物流の知識を身に付ける時間が不足しがちです。

このような状況の中で、輸送効率化による入出庫の増加が、現場の安定性を損なうリスクをさらに高めています。
例えば、急な業務量の増加に伴い、倉庫内に荷物が溢れて、現場の混乱が生じやすく、作業ミスや作業の遅れが発生することがあります。
これにより、結果的に物流全体の効率が低下し、顧客対応にも悪影響を及ぼす可能性があります。

例えば、中小規模の倉庫では、パート・派遣社員の割合が全体の7割を超えていたとします。
長年、やっている作業員であれば、ある程度は、自分の担当の作業の手順や知識は身に付いているでしょうが、それだけです。
倉庫内全体の作業フローを俯瞰して理解しているとは限りません。
その結果、自分の作業だけに注力して、他の作業には無関心になる可能性が高くなり、パートや派遣社員に対して、状況に合わせた柔軟な指示が出来ずに結果的に全体の作業効率は低下をします。

特に、繁忙期にはスポットワーカーが急に投入され、十分な指導時間が取れずに現場に入るケースが大半です。
その結果、既存の作業員がスポットワーカーのフォローに追われ、本来の効率的な作業に集中できない状況が生れてします。
これにより、現場全体の作業効率が低下します。

全体最適化の難しさ

倉庫側の視点から見ると、輸送が効率化されることで物流全体に良い影響が期待されるものの、それに対応するリソースの拡充や適切な調整が行われなければ、逆に物流全体のパフォーマンスを低下させる原因になります。

具体的には、輸送効率の向上に伴って大量の荷物が一度に倉庫に到着する場合、人員の不足やスペースの限界により、荷受けがスムーズに進まず混雑や遅延が発生します。
また、こうした状況では、作業員の負担が増大し、疲労が蓄積することでミスが増え、全体の作業効率や作業品質が低下するリスクが高まります。
適切なリソースの配置と計画的な調整が欠かせないため、倉庫管理システムの導入や、輸送業者との連携が重要になります。
ところが、そういった全体の調整を出来る人材がいないのが、今の倉庫現場の現状なのです。

部分最適化の限界と全体最適化の必要性

輸送効率化にのみ注力する部分最適化では、サプライチェーン全体のバランスを崩す可能性があります。

物流は多くのプロセスが連携することで成り立っています。
なので、一部の効率化が進む事で、全体の流れのバランスが崩れ、他の部分に悪影響を与えることは避けられません。

特に、輸送と倉庫の関係は密接であり、輸送の改善が倉庫の負担増加につながることもあります。

全体最適化を目指すには、輸送だけでなく、倉庫現場の効率化や作業員の負担軽減にも目を向ける必要があります。

例えば、中小の倉庫でも取り入れやすい低コストなITソリューションの導入や、人材の育成・定着を図ることで、倉庫内の作業効率アップをすることで、物流全体のパフォーマンスを持続的に向上させることが可能です。

倉庫現場の視点から見た持続的な解決策

輸送問題を解決することで物流全体の効率を高めるためには、倉庫現場にも目を向けた包括的なアプローチが求められます。

  1. 技術導入の支援:中小の倉庫が自動化やIT化を進めるためには、低コストで導入できる技術の提供や、導入に向けたノウハウの共有が求められます。
  2. 人材育成と現場力の向上:派遣社員・パートやスポットワーカーに頼るのではなく、正規雇用者を増やし、作業者を多能工化するための教育・指導を行う事で、現場力が向上することで、現場の作業効率が上がっていきます。
    これにより、輸送効率化が倉庫に悪影響を与えるリスクを減少させることができます。
  3. サプライチェーン全体の視点:輸送、倉庫、そして在庫管理を一体として考え、各プロセスが連携して効率化を進めることで、全体の最適化を図ります。
    そのためには、荷主・顧客の協力・理解が必須となりますが、そこが今の物流業界において、一番のネックであり、ボトルネックとなっているのです。

結論

輸送効率化は物流業界の重要な課題ですが、それだけでは物流全体の持続的な改善にはつながりません。
特に倉庫現場の負担増加を考慮し、全体として最適な状態を目指すことが求められます。

中小の倉庫が直面する課題に対して、技術導入や人材育成といった支援を行い、輸送と倉庫の両面で効率化を進めることが重要です。
物流業界全体がこの包括的な視点を持ち、戦略的に取り組むことで、持続可能で効率的な物流システムの構築が可能となるでしょう。

 


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