お仕事小説「その荷物、いくらかかっていますか?」第1話

第1話:見えない敵
「また利益が出てないんですか?」
経営会議の終了直後、山崎拓真は資料をめくりながらつぶやいた。
製造原価は下がっている。販売価格も競合と比べて遜色ない。売上自体は堅調。だが、最終的に残る利益は、思ったより少なかった。
「物流コスト…?」
彼の目が止まったのは、会計資料の片隅にある数値だった。何気なく通り過ぎていた“運賃・倉庫費・梱包費”の合計額。先月の総額は、予算より20%近くオーバーしていた。
「おかしいな……」
その瞬間、背後から声が飛んできた。
「おい山崎、そんなところ見てどうする。物流は倉庫が勝手にやってるんだから放っとけよ」
営業部長の田中が肩をすくめた。
「でも、ここのコストって意外と大きくないですか?」
「物流なんてのは、必要経費ってもんだ。売上作る方が先だろ?」
確かに、会社にとって“物を運ぶ”のは本業じゃない。だが、その“本業じゃないこと”が、ここまで大きな出費を生んでいるなら――。
山崎の中に、かすかな違和感と火種が生まれていた。

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