お仕事小説「改革の道 ~物流の未来をつかむ者たち~」第10話(全15話)

第10章:広がる協力の輪と強固な防壁

青山化学工業とのミーティングを終えた高山慶太、山本綾子、佐々木悠の三人は、さらに次のステップに進むための戦略会議をカフェで行っていた。
彼らの目標は明確だった――より多くの荷主企業を巻き込み、物流業界全体を巻き込んだ改革を進めること。

「青山化学工業も、まだ完全に賛同してくれたわけじゃない。でも、新星商事と青山化学の協力を取り付ければ、業界内での影響力は相当なものになる」
と高山はコーヒーを飲みながら考えをまとめた。

「次のターゲットとして、さらに影響力のある企業にアプローチする必要があるわね」
と山本は真剣な表情で資料を見つめながら続けた。
「例えば、輸送ボリュームの大きい『三田エレクトロニクス』や、『横浜食品』などはどうかしら。これらの企業が協力してくれれば、業界全体に大きなインパクトを与えられるはず」

佐々木は山本の提案に頷きながら、
「俺たちが今まで集めたデータをさらに充実させて、これらの企業にも具体的なメリットを提示して説得しましょう。持続可能な物流システムの実現は、彼ら自身のコスト削減や企業イメージ向上にもつながるはずです」
と力強く言った。

その時、高山のスマートフォンに一通のメールが届いた。
送り主は、新星商事の木村智也だった。
高山は少し驚きながらメールを開き、その内容を読み進めた。
木村からのメールにはこう書かれていた。

「高山様、先日はお時間をいただきありがとうございました。弊社内でも議論を進めた結果、御社の提案に対して一定の理解と協力の意志を示すことに決定いたしました。ただし、正式な合意に向けては、さらに詳細な計画が必要です。次回のミーティングでお話を伺えればと思います。」

高山はその内容を読んで、思わず微笑んだ。
「新星商事が協力を前向きに検討してくれている。これは大きな一歩だ」

「やったじゃないですか、高山さん!」
と佐々木が興奮気味に声を上げた。

「これで物流業界全体が本格的に動き出すきっかけが作れますね!」
山本も嬉しそうに微笑みを浮かべ、
「私たちの努力が少しずつ実を結んでいるわね。でも、ここからが本当の戦いの始まりかもしれない」
と慎重な表情に戻った。

その予感は的中した。
数日後、高山たちはロードリンクからのさらなる圧力に直面することになった。
ロードリンクは物流業界全体に対して、自社の影響力を利用して新たな提携契約を推し進め、荷主企業を強力に取り込んでいった。
彼らは、大手荷主企業を次々と巻き込み、現場の労働条件に対する改善要求を事実上封じ込めようとしていたのだ。

ロードリンクの新たな提携契約は
「優先物流パートナーシップ契約」と呼ばれ、業界全体に強力な影響を与える内容であった。
その契約の詳細は、物流市場においてロードリンクが圧倒的な支配力を持つために巧妙に設計されていた。
 
1. 専属物流契約
• 荷主企業は、ロードリンクと独占的な物流パートナーシップを結び、一定期間内における全ての物流サービスをロードリンクに一任することを約束する。
• その対価として、ロードリンクは荷主企業に対して、他社よりも割安な物流コストを提供することを保証。これにより、荷主企業側のコスト削減を実現する。
2. 優遇レートの固定
• ロードリンクは、荷主企業に対して優遇された運送料金を設定し、そのレートを長期間にわたって固定することを約束。この固定レートは市場価格の変動に関係なく維持されるため、荷主企業にとってリスクが少ない魅力的な選択肢となる。
3. 優先的な輸送枠の提供
• ロードリンクは、繁忙期や突発的な需要増に対応するため、荷主企業に対して優先的な輸送枠を提供することを契約に明記。これにより、他の物流業者と競合することなく迅速な輸送を確保できる体制を構築。
4. 罰則規定と制約条項
• この契約には、荷主企業が他の物流業者を利用することを制限する厳しい制約条項が含まれている。荷主企業が契約期間中に他の業者を利用した場合、罰金やペナルティが科される規定が設けられている。
• また、契約解除に関する条件も厳格に設定されており、契約解除には大きなコストが伴うため、荷主企業は事実上、ロードリンクから離れることが困難になる。
 
「これはまるで業界全体を支配するための囲い込みだ……」
と高山は険しい表情で呟いた。
「ロードリンクは荷主企業をがんじがらめにして、俺たちの改革の芽を潰そうとしている」
 
「しかも、罰則規定まで設けているなんて……荷主企業が改革に賛同すること自体が難しくなってしまう」
と山本は顔を曇らせながらも、冷静に分析した。
 
「でも、ここで諦めるわけにはいきません!」
と佐々木が強く拳を握りしめて言った。
「俺たちには、まだ現場の人たちの信頼と、これまでの努力があります。新星商事や青山化学工業の協力を基に、ロードリンクの戦略を突破する手段を考えましょう!」
 
その時、高山のスマートフォンが再び鳴った。
今度の発信者は、公正取引委員会の委員長である桜井大志だった。
高山はすぐに電話に出ると、桜井の落ち着いた声が響いた。
 
「高山さん、物流業界の改革に関して、ロードリンクにより、変化があるみたいですね。ただ、私たちもあなたたちの動きにも注視しており、業界全体での公正な取引環境の整備に向けた新たな指針を検討しています。しかし、これには荷主企業からの直接的な証言と支持が必要です」
 
高山は息を呑んだ。
「つまり、荷主企業の協力が公正取引委員会の判断に大きな影響を与えるということですか?」
 
「その通りです」と桜井は静かに答えた。
「あなたたちが集めた現場の証言に加え、荷主企業からの支持を確保することができれば、私たちもさらなる規制強化に向けて具体的な動きを開始できます」
 
電話を切った高山は、再び仲間たちに顔を向けて言った。
「桜井委員長からのアドバスだ。荷主企業の協力が、公正取引委員会の決断を左右するカギになる。俺たちはもっと多くの荷主企業の支持を得なければならない」
 
「絶対にやり遂げましょう!」
と佐々木が熱く言い放った。
「俺たちはここまで来たんですから、絶対に諦めない」
 
山本も頷きながら、
「次なる戦いに備えて、さらに緻密な計画を立てましょう。私たちの改革のために、現場と荷主企業、そして業界全体を繋ぐ道を切り開いていくわ」
と静かに誓った。
 
高山たちは、荷主企業との連携を強化し、公正取引委員会への強力なサポートを構築するために、再び戦略を練り直した。
業界全体に変革の波を広げるために、彼らの戦いは新たなステージに突入しようとしていた。
そして、その道のりがどれほど厳しくとも、彼らの信念は決して揺らぐことはなかった。

 


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