道が尽きるとき IN プロローグ・第1話
【あらすじ】
杉田健一が経営する運送会社「杉田運送」は、燃料費の高騰や激しい競争により、資金繰りが悪化。
社員たちの生活や取引先との関係に責任を感じながらも、倒産に追い込まれる。
杉田は会社を守れなかった自責の念に苦しみつつ、すべてを失った現実と向き合う。
新たな道を模索しながらも、経営者としての失敗と挫折の重さに耐え続ける姿を描く、壮絶な企業崩壊の物語。
テーマは「責任と挫折」。
プロローグ:追い詰められた会社
杉田健一が経営する「杉田運送」は、地方都市に拠点を持つ中小規模の運送会社だ。
地元の中小企業や農家を取引先に、農産物や加工品の輸送を主力業務とし、安定した業績を維持していた。
収穫期には、地元の農産物の配送を中心に、食品メーカーの製品を取り扱うことで着実に成長してきた。
特に、地場産業の支援を通じて地域経済を支える役割を果たしていた。
しかし、ここ数年の間に状況は急速に悪化していた。
燃料費の高騰や大手企業の物流市場進出による激しい価格競争が始まり、業績は徐々に下降。
特に、地元農産物の減少や契約の条件が厳しくなり、受注量が減少。
取引先からの支払いの遅れも重なり、資金繰りが厳しい状況が続いていた。
さらに、主要な取引先である地元食品メーカーが大手物流企業との契約を結んだことで、売上は大幅に減少。
新規の取引先も見つからないまま、銀行からの追加融資も限界にきていた。
杉田は、かつての成長を取り戻そうと必死に奔走したが、次第に社員たちの給料や運転資金の確保が難しくなっていく。
気づけば、会社の資金は底をつきかけていた。
そんな杉田は、社員とその家族の生活を守るために奮闘していたが、打開策は見つからず、悩みは深まるばかりだった。
そんな状況のなか、帳簿を見つめながら、彼は最後の望みを銀行の追加融資に託すしかないと考え、担当の中村誠一の相談に全てを懸けることを決意する。
第1話:危機の兆し
最後の希望であった銀行からの追加融資の結果を受け、誰もいない事務所で、杉田健一は心も身体も疲弊した。
三崎信用銀行の担当者、中村誠一に提出した資料を杉田は何度も見返した。
月間売上:650万円。だが、支出は880万円を超え、毎月230万円の赤字を出している。人件費600万円、燃料費150万円、借入返済100万円、その他の経費…これでは持つはずがない。キャッシュは残りわずか1,500万円で、2ヶ月もすれば底を突く見込みだった。
彼はこれまで何度も中村に足を運び、追加融資を求めていたが、今日の面談にかける期待は大きかった。
手に持つ資料は、これまで以上に詳細で、計画に基づいたものであった。
中村に向かい、杉田は慎重に言葉を選びながら話し始めた。
「中村さん、月間の売上は650万円ですが、支出がそれを上回る880万円に達しています。人件費が600万円、燃料費が150万円、借入返済が100万円です。このままでは毎月230万円の赤字が出てしまいます。現金残高は1,500万円で、あと2ヶ月で資金が尽きる見込みです。」
中村の無表情な顔に視線を送りつつ、杉田は次に事業計画の詳細を説明し始めた。
「ただ、何も手を打たずにいるわけではありません。今後の計画として、まずは地場の農産物や加工品を扱う新しい配送サービスを立ち上げます。これにより、地元の農家や小規模事業者との連携を強化し、安定した受注を目指しています。また、ECサイトとの提携も検討しており、小規模企業向けの物流サービスを多角化する計画です。」
中村は書類を見つめながらも、反応はまだ見えない。
「さらにコスト削減の取り組みとして、運行ルートを最適化し、燃料費を削減します。また、新しい管理システムを導入して、車両稼働率を上げることで効率化を図ります。人件費については、繁忙期に短期契約のスタッフを増員し、固定コストを抑えながら対応するつもりです。」
杉田は少し息を整え、さらに説明を続ける。
「加えて、資金繰りの改善も考えています。地元自治体の中小企業支援制度を活用して、補助金や低利融資を申請します。また、取引先との交渉を行い、支払い条件を改善してキャッシュフローの安定化を図る予定です。」
中村は相変わらず反応を見せないが、杉田は最後の希望を込めて続ける。
「実際に、地元スーパーとの新規契約が進んでおり、これが成立すれば月100万円の売上増が見込まれます。厳しい状況ではありますが、確かな計画と改善策があります。ですから、どうか追加の融資をお願いできないでしょうか。」
杉田の説明が終わり、静寂が二人の間に広がった。
中村はゆっくりと資料を見直し、次に口を開いた。
「杉田さん、ここまで詳細な計画を立てていることは理解しています。しかし、現状を踏まえると、返済能力に対して厳しい判断をせざるを得ません。この状況で追加融資を行うのは難しいです。」
その瞬間、杉田の胸に絶望が広がった。
自らの努力や計画が全て無駄に感じられた。
彼は資料をゆっくりと片付け、重い足取りで銀行を後にした。
杉田は銀行でのやり取りを振り返りながら、再び帳簿に目を落とすも、数字が彼に対して無言の答えを返すだけだった。
「もう、打つ手はないのか…」と、彼は思わず机に突っ伏した。