お仕事小説「改革の道 ~物流の未来をつかむ者たち~」第4話(全15話)
第4話:新たなる挑戦
公正取引委員会の会議室を後にした高山慶太、山本綾子、佐々木悠の三人は、冷たい風を感じながらビルの前に立っていた。
冬が近づき始めた東京の空はどこか曇っており、薄暗い雲が彼らの行く手を遮るように広がっていた。
「少しは手応えを感じたけど、まだ安心はできないな……」
と、高山はポケットに手を突っ込みながら呟いた。
顔には一瞬の疲労の色が見えたが、その瞳の奥には未だに燃えるような決意が宿っていた。
山本が頷きながら、
「そうね。委員たちの反応は悪くなかったけど、まだ完全に味方に引き込めたわけじゃない。これからも彼らの関心を引き続けるための状況証拠を集めていかないと」
と、彼女は冷静に状況を分析していた。
「俺たちが動いていること、現場のみんなに伝えないといけませんね。現場ではまだ、変わるかどうか半信半疑な人たちもいますから……」
と佐々木が言い、少し不安そうな顔を浮かべた。
高山は佐々木の言葉に深く頷いた。
「その通りだ、佐々木君。俺たちがどれだけ本気で改革に取り組んでいるか、そしてどれだけ現場の声を重視しているかを、みんなに分かってもらわなきゃならない。ネクストポートの作業者たちにも直接話をする機会を作ろう」
と決意を新たにした。
彼らが次のステップを話し合いながら歩いていると、突然、高山のスマートフォンが鳴り響いた。
画面に表示された名前を見た瞬間、高山の表情が引き締まる。
発信者は、ロードリンクの役員である川村裕二だった。
高山は一瞬、躊躇したが、すぐに受話器を取った。
「川村さん……何ですか?」
「やあ、高山くん。君たちが提出した提案書の話、聞いたよ。どうやら君たちが少しは認められたようじゃないか。でも、そんなものじゃ俺たちはビクともしないさ。むしろ、君たちが動けば動くほど、私たちは対策を講じるだけだよ」
と、川村の声は冷たく響いた。
「何を言っている、川村さん。俺たちは現場の人々のために戦っているんだ。あなたた達のように利益だけを追い求めるのとは違う」
と、高山は静かだが強い口調で言い返した。
「ふん、理想論を語るのは勝手だが、業界はそんな甘いもんじゃない。君たちの動きの情報は、逐一、入ってくる。君たちを阻止するために、会社は新しい戦略を練り始めたよ」
と、川村は不敵な笑みを浮かべながら告げた。
「新しい戦略?」
高山の声に疑問が混じる。
「具体的には何をするつもりなんです?」
「さあな、君たちがどこまで持ちこたえるか、見物だよ。まあ、せいぜい頑張ってくれ」
と、川村は皮肉たっぷりに言い残し、電話を切った。
高山は険しい表情のままスマートフォンを握りしめ、静かに息を吐いた。
「川村の奴、何か仕掛けてくるつもりだな……」
山本が心配そうに顔を寄せてきた。
「川村さん、何か策を練っているの?」
「まだわからないが、彼らが対策を講じるのは間違いない。だからこそ、俺たちも迅速に動く必要がある。ネクストポートの作業者たちに今の状況を説明し、彼らの協力を取り付けるんだ」
と高山は力強く言った。
佐々木は大きく頷き、
「俺も手伝います!現場のみんなに俺たちの想いを伝えます」
と決意を新たにした。
彼の目には、若さと情熱が燃え上がっているのがはっきりと見えた。
その時、山本がふと微笑みながら言った。
「ねえ、慶太。あの桜井委員長が最後に見せた微かな笑み、覚えている?きっと彼は私たちの想いを感じ取ってくれたんだと思うわ」
高山はその言葉に小さく微笑みを返した。
「ああ、彼の目には確かに信頼の光が見えた。あれを無駄にしないためにも、俺たちはさらに全力を尽くさなければならない」
三人は東京の街を見渡しながら、次なる戦いの場に向かう決意を新たにしていた。
彼らの目の前には、まだ多くの障害が立ちはだかっていたが、その瞳にはどんな困難にも負けない強い意志が宿っていた。
彼らの戦いは始まったばかり。
物流業界に吹き荒れる嵐の中で、高山たちは次なる挑戦に立ち向かおうとしていた。
業界を変えるための長い道のりが、いま彼らの足元に広がっていた。