倉庫作業品質の均一化と目的意識
トラックドライバーの勤務時間制限が始まり、運行スケジュールの最適化、積載効率の向上、共同輸送などさまざまな対策が行われてきましたが、実際に制限が始まってみると、帰社できない、車中泊が増えたなど、インターネット上で様々な声が聞かれます。
これは予想外のことではないかと思います。
これにより、倉庫側に今まで以上に求められることは何でしょうか?
荷物の積み下ろし、出荷準備の効率化など、現場作業者のスキル・知識・質が求められるのではないでしょうか。
なぜなら、トラックドライバーの労働時間規制があることで、今まで以上に運行時間がシビアに管理されます。
その結果、現場作業においては、運行時間を守るため、作業の遅延、荷待ちなどは極力避けなければなりません。
そのためにも、現場作業の効率アップ及び作業品質を安定させる必要があります。
例えば、Aさんが荷受け、積み込みを行った場合は、15分で済む作業が、Bさんが行うと30分かかるなど、作業者によって作業時間にバラつきがあると、トラックの運行管理にも支障が出てしまいます。
なぜこのような作業のバラつきが起こるのでしょうか?
作業者の経験の違いと言ってしまえばそれまでですが、実はそれだけではありません。
もちろん、経験の違いやその現場への慣れの違いもありますが、作業者の意識の持ち方、仕事の取り組み方の違いが大きく影響しています。
では、Aさんの作業はなぜ早いのか?
それは、一歩、二歩先を見据えて、作業を行いながら場を整え、常に作業がしやすい環境を自ら創り出しているからです。
なぜそうした作業ができるかと言えば、常に周りの状況、動きを見て、作業をしやすい環境を創っているからです。
この根底にあるのは、いかに早く作業を終わらせるかを意識しているからです。
では、Bさんの場合は、早く作業を終わらせようという意識が薄く、淡々と目の前の作業を行っているだけです。
なので、作業を行いやすくするための環境を整えることなど考えておらず、荷物が増えると作業スペースがなくなり、作業の効率が落ちてしまいます。
今までは、そうした作業時間のバラつきがあっても、たいして問題にはなりませんでしたが、今後はそうは言ってられません。
作業時間のバラつきがあるということは、トラックドライバーのその後の活動に影響を与えてしまいます。
場合によっては、次の仕事の遅延にも繋がり、運送会社に迷惑をかけるだけでなく、追加料金を請求され、経費が加算されます。
このような状況を避けるためには、現場は、今まで以上に作業品質の均一化、標準化を求められることになります。
ところが、現場作業者の多くは非正規雇用者です。求められても、対応できるでしょうか?
正直、難しいと考えます。
なぜなら、現場作業者に対しては、どんな人材育成も行われていないからです。
そして、一部の作業者は、繁忙期など忙しい時にのみ働くギグワーカーの可能性が高いです。
本来、繁忙期こそ、作業品質が求められ、決められた時間を守ることが必要とされます。
もちろん、仕事・作業を教え、ルール・規則を守るための指導は行っているでしょう。
では、作業品質を向上させるためには、どのようなことを行うでしょうか?
先ほども述べたように、どんなにスキル・知識があっても、仕事に対する姿勢が、淡々と目の前の作業を終わらせるだけでは、作業の効率は上がりません。
言い換えれば、目的意識を持たずに、目の前の作業を淡々と行っているだけです。
目的意識を持たないということは、倉庫作業を単純作業化させてしまっているのです。
目的意識を持たせることと、作業手順を覚えさせることは異なります。
多くの場合、作業手順は教えても、仕事に対する目的意識を持たせる指導・教育は行われません。
というよりも、企業側は、仕事に対して目的意識を持たせる必要性を感じていないように思えます。
倉庫作業は、単純作業でやりがいがない、モチベーションが上がらないと言われ続けてきました。
なぜやりがいがなく、モチベーションが上がらないのか?
それは、仕事に対して目的意識を持っていないからです。
仕事に対して目的意識を持たせるためには、仕事を教える指導・教育とは異なります。
仕事を教える場合は、指導マニュアルがあり、作業手順書があります。
なので、誰が教えても同じ結果を得られます。
というか、同じ結果を得られなければ困ります。
そうでなければ、作業品質の均一化、作業手順の標準化が実現できません。
ところが、目的意識を持たせるには、相手に合わせて対応する必要があります。
なので、必ずしも同じ結果が得られるとは限りません。
ここでいう目的意識の目的とは、「何のために仕事をするか」、「誰のために仕事をするか」ということを意味します。
こういうと、「生活のため」、「お金のため」と答える人が大半でしょう。
もちろん、その答えは正しいです。
ただ、それでは、仕事に対してやりがいや面白みは微塵も感じないでしょう。
なので、見方を変えて、仕事を行う上で何を大切にしているかを考える必要があります。
仕事を行う上で自分が大切にしたいこと、大切にするためにはどうすればいいかを考えることで、やるべき行動が明確になり、自発的な行動が生まれます。
言うならば、仕事を行う上で自分が大切にしたいことがセンターピン・自分軸となり、行動指針が生まれるのです。
私の場合は、一緒に働く人(同じ会社・職場の人、外部のトラックドライバーなど)が安全に働き、仕事を早く終わらせるように整えることです。
これを目的として、意識しながら仕事を行うことで、一貫性のある行動を状況に応じて柔軟に動くことができるようになります。
これは、あくまでも私の場合です。
一人ひとり、仕事を行う上で大切にしたいものは違います。
なので、一人ひとり自分の答えを出す必要があります。
ただ、現状、物流倉庫現場の作業者には、そうしたことは行われていません。
もともと、人材育成とは無縁の業界です。
多くの物流企業は、管理職・総合職に対しては、管理職研修などを行いますが、現場作業者に対しては研修などは行われない場合が多いです。
また、現場作業者の多くは非正規雇用者です。正規雇用者の作業者にすら、人材育成という投資をしない業界です。
安価な労働力と捉えられている非正規雇用者に対して、人材育成という投資を行う企業は少ないでしょう。
そのため、目的意識もなく、淡々と単純作業化をさせてしまっています。
そんな状況も、2024年の物流輸送危機により、思わぬ副産物的に変わるのではないかと考えます。