スーパーカブは、誰の発案か?

どれだけの人が知っているか判らないが、スーパーカブの発案者は、藤澤 武夫氏である。

宗一郎氏は、スピード重視、馬力重視、安全重視と言うのは、誰もが認める事だろう。

これは、顧客層を限定してしまう可能性がおおいにある。

 

経営を預かる藤澤氏としては、そんな限定の顧客層だけを相手にしていては、経営が成り立たない事は判っていたからこそ、顧客層の幅を広げるためにも50ccの小型バイクが欲しかった。

 

昭和31年に宗一郎氏と藤澤氏は、ドイツ・イタリア旅行に行っている。

この時の飛行機などの移動時間に藤澤氏は、

 

「社長、ドイツのクライドラーやイタリアのランブレッタのモペットはおもしれえが、製品としてはいまいちだね。

第一使う人が不便だ。

しかし、改善して便利な乗り物にすれば、あの種のバイクは、日本でも売れると思うよ。

うちにもあんなバイクがあればなぁ・・・・。」

 

「いままでのような自転車に取り付けるようなものじゃ、もう駄目だ。

ボディぐるみのを考えてくれないか。

どうしても50ccだ。

底辺の広い、小さな商品を作ってくれ。

底辺の広がりが出来ない限りうちの将来はないよ。」

 

とは言え、そう言われて、素直に受け入れる宗一郎氏ではない。

 

「技術屋でないおめさんには判らないだろうが、おれにいわせりゃ、あんなのオートバイじゃないんだょ。

オートバイと言うのは、・・・・・」

 

と、宗一郎氏は、オートバイの講釈を話したが、それが終わると、藤澤氏は、再度、口説きにかかった。

 

「排気量は50cc、エンジンや配線を露出しないで、しかも、ボディーぐるみの小型オートバイなら、必ず売れるね。

日本にソバ屋が何件あるか知らないが、みんな買うね。

それを開発できるのは世界を見渡しても本田さん、あんたしかいないよ。」

 

などと、事あるごとに小型バイクの事を話題にしては、宗一郎氏を口説いている。

 

これほど熱心に藤澤氏から言われては、宗一郎氏も気にかけないわけにはいかない。

ドイツに着くと店頭に並んでいる当時有名なオートバイを見ながら、藤澤氏にどんなのがいいのか宗一郎氏が聞いても、どれも、藤澤氏が納得するものはなかった。

 

宗一郎氏が、藤澤氏にどう言うのがいいのかと聞くと、

 

「どういうのかと言われても、アタシにもわからん。

とにかく50ccでスタイルが良くて、女の人にも簡単に乗れるものが欲しい。

機械が外に出ていちゃダメだ。」

 

「機械が外に出ていてはダメだ。」と言う理由は、以前、藤澤氏の奥さんが、

 

「本田さん、私、気に入らない事が一つある。

あのニワトリの臓物のようなものは、どうにからなないの。」

 

と言った事が関係していると思う。

女性の感覚らかして、機械や配線が露出しているのは気になるようだ。

その事も含めて、あのスタイルが誕生したのだと思う。

 

 

 

記事の中で、本田技研広報部の方が

 

「発売の翌年、アメリカホンダを設立し、アメリカに進出しました。バイクの本場アメリカで成功することが大切だと考えたからです」

 

とコメントしているこれには、裏話的な事がある。

 

輸出するにあたり、市場調査の結果では、アメリカよりヨーロッパの方が有望だと出た。

実際、販売担当で調査にあたった川島喜八郎氏(二代目福社長)は、

 

「地理的な関係からみて、東南アジアを最優先するべきです。

欧州市場では、ホンダの知名度は高まっています。

しかし、市場は成熟期にさしかかっています。

アメリカに至っては、ホンダの知名度はゼロです。

誰も知りません。

知らない会社の製品をいったい誰が買いますか。

まず、東南アジアの市場を押さえ、次に欧州を開拓、アメリカは最後に回すべきだと思います。」

 

と進言している。

 

そのような進言も意に介さず、藤澤氏は、アメリカ進出を決めている。

それは、アメリカと言う大国が、当時の世界の消費経済を起こしていると確信していたからである。

アメリカでに需要を起こす事が出来れば、その商品には将来性がある。

アメリカで駄目な商品は、国際商品には成り得ない、と言う信念を強く持っていたからだと言う。

 

そんな思いからアメリカ進出を実行したが、商社を通して行うような、他人のふんどしで相撲を取るのではなく、現地法人を作る事が前提だったので、大蔵省にどうにか許可をもらう事ができ、昭和34年6月にロサンゼルスに現地法人アメリカホンダが設立したそうだ。

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