目標は高くin宗一郎氏
日本の自動車産業に参入したのが一番最後のホンダが、今のように世界的に大きくなったのは、それはひとえに宗一郎氏の目標の高さだと思う。
昭和31年からホンダの社是で「世界的視野に立つ」ことを謳っている。
宗一郎氏は、「日本だけを相手にして日本一になったって、真の日本一じゃありゃしねぇ。世界一にらなけりゃ、日本一にもなれねぇんだ」と言っている。
この時代、日本国内でどれだけ世界一を視野に入れていた経営者がいただろうか?
宗一郎氏は、絶えず世界に目を向け、精力的に海外へ視察に行ったり、世界基準の技術になる為の設備投資は惜しみなく行ってきた。
当時の額で、四億五千万円にもなる工作機械を輸入している。
この時の会社の金庫番であも藤澤氏も「社長、もっと買えよ」と言っている。
これは、お互いの将来に対してのビジョンをしっかりと持ち、信頼し合っているからこそ言える言葉だと思う。
それに、宗一郎氏は、「たとえ、会社がつぶれても、機械そのものは残るから、国民の外貨は決して無駄になる事はなるまい」とも言っている。
自分の会社の事だけでなく、日本社会全体の事まで視野に入れているとは、驚きの一言。
それに関連して、自動車産業を国主導で産業構造の再構築を進める計画に組み込もうとしていた時には、宗一郎氏は、通産省に乗り込み「国の補助で事業をやって成功したためしはない。日本が国際競争力をつけるためなら、自由競争こそが産業を育てる」と強く主張した。
それと同じように、今の時代、クルマの定番色には、”赤や白”は入っているのは当然と思われているが、その当時は、救急自動車(消防車・救急車・パトカーなど)と紛らわしいと言う事で法律で規制されていた。
宗一郎氏としてはクルマのボディー色に赤を使いたいが、赤や白を使うためには、運輸省の許可が必要なのだが、なかなかその許可が下りず、新聞に「赤はデザインの基本で、それを法律で規制するのはおかしい。世界の一流国が国家で色を独占している例など聞いた事がない」と投稿しアピールし、その結果、許可が下り、その後は赤い車も増えてきたと言う。
これは、日本国内だけに目を向けていては、絶対に発想する事は出来ない。
仕切られた場所に縛られた既成概念ほど危険なモノはないと思う。
世界に目を向け、設備投資をしながらも、会社で働く従業員・お客様の事を宗一郎氏は尊重していた。
本田宗一郎氏の口癖に「120%の目指せ」と言うのがるが、これは、「人間のやる事だから、誰だって1%ぐらいのミスを犯す。100%を目指していたんじゃ、99%の完成度にしかならない。つまり、1%は不良品だと言う事だ。その不良品を買ったお客さんは、それがホンダのすべてだと思ってしまう。だから、120%の良品を目指さなきゃならないんだ。俺はな、不良品を買わされたお客さんに成り代わって言っているんだぞ。」と言う考えだと言う。
漫画「バーテンダー」の中にも、「バーテンダーにとっては、その日の何十杯の内の一杯のミスかもしれないが、お客様にとっては、最初で最後の一杯かもしれない」と言うのがある。
その一杯がお客様にとっては、バーテンダーの評価になる。
まさに、「一期一会」である。
そして、不慣れな社員をみた宗一郎氏は、「おめえ、どこから給料もらっているんだ?」と問い詰め、「モノを作る時は、それと一番長く付き合わなくてはならない、お客さんの事を考えろ」と言う。
購入し使う側の立場に立ってこそ言える言葉だと思う。
会社の従業員に対しても気を使っていた。
エンジンを製作するにあたり、今まで行っていた砂型鋳造と言う方法は、金属の粉じんを長期間にわたり吸い込む事により、古典的な職業病である「塵肺」を引き起こす原因であったが、ダイキャストと言う鋳造方法を採用していた。
これは、寸法精度が高い為、大量生産に向き、工程過程で切削加工がわずかで済むため、金属粉じんが出ないが、コストが高くなる。
コスト高になるのもかかわらず、ダイキャストと言う方法を取り入れたのは、まさに従業員の健康を考えての事だった。
のちに「工場で粉じんが出るモノを考えるなんて、君は”人殺し”か」と怒鳴られた設計担当者もいるそうだ。
しかも、この部品や材料を調達するのでさえ、困難な時代にエンジンの組み立てには、ベルトコンベア方式を導入していた。
宗一郎氏は「私は、まだ従業員が何十人しかいない時代から、生産は時間との競争であると信じ、マスプロ体制を追求してきた。むろんのこと、単なる量的な追及ではない。私は第一に、若い人たちが納得して働ける工場づくりを心掛けたい」と言っている。
顧客満足度だけでなく、従業員満足まで気を使っている。
業界は違うが、これは、リッツ・カールトン・ホテルのクレドに書かれている内容に一部繋がるものがあると思ったりもする。
宗一郎氏は、ほんとに人が好きで、その人達の立場に立ってこそ感じる事であり、言える事ばかりである。
だからこそ、どんなに怒鳴られても、従業員達からは「おやじ」の愛称で呼ばれたいんだと思う。
目標を達成する為には、多くの人の協力が不可欠だが、それ以上に視野の広さと行動力が必要になってくる。
視野を広く持つと言う事は、色々な視点を持つ事であり、それにより、社会全体から見た会社の存在・関わり方、お客様の視点、従業員の視点も得る事になる。
その視点を得たからと言って、行動しなくてはまったく意味がないものである。
その点、宗一郎氏は、藤澤武夫氏と言う最良のパートナーを得る事により、十二分にその資質・才能・魅力・長所を発揮できたと思う。
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