教祖 in 本田宗一郎

書籍「ホンダ神話」より。

 

本田宗一郎氏と藤澤氏が新興宗教について話した事が書かれてあった。

 

「本田さん。

あんたはへ理屈をつけるのが上手い。それも、まことしやかだ。

何か知らないが、相手を引き付ける魅力がある。

今は、こうやっているが、会社がやっていけなくなったら、新興宗教でも興してやるから、その教祖になれ。

お金を集めるのはあたしの仕事だ。

あんたを教祖に祭り上げた方が、お布施が入るので、会社をやるより楽かもしれない。」

 

と藤澤氏が言うと、

宗一郎氏は真剣になって、

 

「宗教で金儲けなんかしたらダメだ。

もし、新興宗教を始めたら、おれは、旧来の宗教とはまったく別な、何ごともすべて理詰めで考える哲学を追求する。

人生の不可思議ではなく、現代人に分りやすい普遍妥当性を説く。」

 

と反論した。

 

いっけん、冗談とも笑い話とも取れる他愛もない会話だが、現実は、見事に宗一郎氏は、ホンダ教の教祖になっていたのではないかと思う。

もちろん、藤澤氏が、そう言う脚本を書いのだが、宗一郎氏もそれを知っていながら、教祖を演じていた。

 

本の中で、藤澤氏が死ぬ間際までの心残りが、

 

「あんた(宗一郎氏)は、”ホンダ教の教祖”の役をあたしが思った以上に、見事に演じてくれた。

あれは、社外向けのイメージなのに、いつのまにか偶像化され、

社内でもそれが本物の宗一郎だと信じているバカ者どもが出てきた。

企業としてこれはやばい。

偶像が独り歩きすれば、本田の経営基盤が揺らぐ。

あたしの最後の仕事は、目の黒いうちにおまえさんを教祖の座から下し、

等身大の姿に戻してやる事だった。

しかし、虚像が風船のように膨らんでしまってはとうてい無理だ。

パンパンに膨らんだ風船に針を刺せば、無用の混乱を引き起こす。

問題は、あんたがこの世からいなくなった時だ。

やはり、ホンダと言えども、万物流転の掟に逆らえないのではないか。」

 

と書かれてある。

予想通り、教祖(創業者)の存在がなくなった時の反動は大きかった。

藤澤氏も、それを判っていたからこそ、研究所を独立させ、独特の組織体制を作り、

本社では、ワイガヤと言われる役員室の大部屋制を作り、集団指導体制を作った。

 

この体制は、宗一郎氏、藤澤氏が生きている間は、引退しても二人が取締役員の経営の指南役を果たす事で機能していたが、

二人が亡くなり、直接指導を受けてきた歴代の取締役員も経営に関与しなくなると、四代目の川本社長は、悩んだ末、

役員の大部屋制度の事実上の廃止に始まり、社内に存在していた本田工業と藤澤商会を統合したが、

それらが昔からの体制の崩壊の始まりであった。

 

川本社長については、本によって評価が違ったりしているので、良いとか悪いとか簡単に評価は出来ないが、本を読んでいる限り、

昔からホンダと取引があり、知っている人にとっては、あまり良い評価を得ていない感じがする。

 

もしかしたら、

四代目社長の大本命とされていた入交昭一朗氏が、社長になった方が、昔からの経営方針に近かったかもしれない。

 

川本氏は、ホンダのヒーローは、本田宗一郎氏ただ一人と考えていたのに対し、

入交氏は、藤澤氏が考えていたように、小さいヒーローをたくさん作ろうと考えていたそうだ。
川本氏は、社長に就任すると、

「古典的なホンダイズム」をいったん否定した上で、時代に合った「新ホンダイズム」を作る事を考えていた。

それに対して、副社長に就任した入交氏は、昔のような社風を再構築して、

新しいヒーローが生まれやすい土壌にする事だった。

 

この二人の微妙な考え方の違いは、藤澤氏が作り出した虚像の宗一郎氏をどう捉えていたかだと思う。

 

入交氏は、

アメリカのオハイオ工場を運営するホンダ・オブ・アメリカ・マニュファクチャリングの社長をしていた時代があり、

ホンダと言う会社をある意味、外から見る事が出来たからではないかと思う。

 

宗一郎氏が言っているように、ホンダの社内には学閥による派閥が存在しなかったが、

その変わり、虚像として膨れ上がってしまった宗一郎氏の捉え方の違う人達の派閥が出来てしまっていたのではないかと思う。

 

自分は、宗一郎氏の事は、本に書かれている事しか判らない。

だが、本は、脚色も出来る。

そして、その時代背景、状況を正確に判らないなと本当の事は見えない。

だから、ホンダ教の教祖としての本田宗一郎氏は知っていても、一人の人間としての本田宗一郎氏の事は知っているようんで知らないのだと思う。

 

 

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